ラテはエスプレッソで出来ている

コーヒーやエスプレッソにまつわるブログ

【エスプレッソはコーヒーより上?】「エスプレッソからはじめよう」がとんでもない本だった

こんにちは。

最近コーヒー、というかエスプレッソについて悩みがあります。

それは・・・

ドリップコーヒーと比べてエスプレッソの情報ってどこでも同じようなことしか書かれてない?

エスプレッソに適している豆は何なの?好みによるって何?

ホームバリスタ向けの情報とプロのバリスタの情報の間のギャップが深くない?

・・・これ、僕と同じようにエスプレッソを最近始めた人なら共感してもらえると思うの。

なんていうかエスプレッソって、ドリップコーヒーと比べて具体的な情報とか「あ、こうすればいいんだ!」みたいな道が全然見えないんです。入門者向けの本当に表面的な情報は沢山あるのですが、エスプレッソの機械を買ったらどんなことを考えて日々エスプレッソを入れたらよいのかとか、何が正解なのかみたいなのが全然ないのです。

お店に通ってバリスタさんと仲良くなったり、カフェで働けばその辺も見えてくるのかもしれませんが、家で独学でエスプレッソを楽しむ身としては次のステップが見えなくてきついなーと感じていました。

でで。

そのあたりの疑問や悩み(?)に、絶対的な正解かどうかはわからないけど一つの回答・指針を指し示してくれる本にようやく出会えたので紹介やらレビューをします。

本のタイトルは「エスプレッソからはじめよう」です。

「エスプレッソからはじめよう」がとんでもない本だった

最初に書いておくと、・・・この本、とんでもないです。

が、その前に。そもそもエスプレッソの本ってどのくらいあるかご存じですか?

エスプレッソ本は大手本屋でもたった4冊だけだった

エスプレッソについて書籍で勉強しようと思い、東京駅の丸善でコーヒーコーナーに立った僕は驚きました。

え、エスプレッソの本が…0冊だ

いわゆるドリップコーヒーの本は本棚の4段分をびっしりと埋め尽くされていました。なのにどこにもエスプレッソの文字が見当たらないのです。

3分ほどおろおろしつつ、もう一度よく本棚を探したところ、右の下の隅っこに"エスプレッソ"というカテゴリの札が。そこには申し訳ない程度に4冊の本と1冊の洋書がありました。これだけで今の日本のエスプレッソの興味というか人気が分かります。

4冊のうち2冊がラテアートの作り方の本。そして1冊が画像沢山の「エスプレッソパーフェクトバイブル」。立ち読みしたところ入門的な内容と後半レシピが書かれている感じ。ネットでわかる情報が大半だけどまとまっている本はありがたい。一冊はあったほうが良いかなと思い購入。

そしてもう一冊が小文庫本の「エスプレッソからはじめよう」でした。

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購入した二冊の本

バイブルの方が本命で、エッセイのほうは読み物として面白い話があるといいなぁ、くらいの気持ちで購入しました。

著者の齊藤正二郎さんのクセが強すぎる!

「エスプレッソからはじめよう」の表紙をみて、和服の無個性的で無印良品の洋服を着てそうな男性が美味しいエスプレッソについてライフスタイルを交えた精神世界を語る、そんな心が穏やかな本だと思っていました。

が、この本の表紙に騙されてはいけません。

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この表紙に騙されてはいけない

本を読み進めてすぐのこと。最初の項目で恐ろしいことが書いてありました。

「美食の国々ではエスプレッソこそがコーヒーである」

なんとこの本「エスプレッソはドリップコーヒーよりも上だ」と明言しているんです。その項目の見出しは「美食の国々ではエスプレッソこそがコーヒーである」ですよ奥様!!

怒られること覚悟で内容を少しだけ書いてしまうと、フランスで長い間三ツ星を維持していたリヨンにある「ポール・ボキューズ」(リンクはWikipedia)というレストランで出された最高のエスプレッソ(をお湯で薄めたアメリカーノ)に対して、著者がギャルソンに「エスプレッソじゃなくてドリップコーヒーが飲みたいんだ」と注文をつける。そこにポール・ボキューズ本人がやってきて「うちは1000万円もする最高級のエスプレッソマシンを使っている。安い紙でコーヒー豆を濾して飲みたいというなら日本に帰ってからゆっくりとお楽しみください」と真顔で著者に答えたエピソードが書かれていました。

つまり著者は、世界の美食を極めている三ツ星レストランのシェフが「エスプレッソこそがおいしいコーヒー。ドリップコーヒーはマイナーだ」と言っていると書いているんです。ドリップコーヒーに人生を費やしている人たち涙目あるいはおこですわな。

最初の10ページを読んだだけで、「あ、この著者…かなり癖が強いわ」と感じました。

そもそも著者の齊藤正二郎さんはバリスタではない!

なおこの本の著者は齊藤正二郎さんという方で「ダブルトールカフェ」という日本初のシアトル系エスプレッソドリンクを扱うカフェを始めた方。

本を読むとわかるのですが、この人はバリスタではありません。経営者です。もともとはシアトルで建築会社を立ち上げ、日本に何か輸入しようとしたときにたまたまエスプレッソマシンを選び、カフェを立ち上げてからもエスプレッソの液体ではなくエスプレッソマシンの機械ばかり興味があったとのコト。機械工学エンジニア兼経営者なのです。

バイクいじりが大好きで伝説のラリー、BAJA1000も何度も出場してる!

齊藤正二郎さん。若いころから機械いじりが好きで、特にバイク(モーターサイクル)が大好き。10歳でポケバイ、高校時代は部活でトライアルバイクを乗り回しオフロードレース(もしかしたらエンデューロもやってたかも!?)の世界にどっぷり。オフローダーにとっては究極のロマンであるメキシコの砂漠ラリーレースであるBAJA1000にも何度も出場したとのこと。さらにシアトルの飛行機パイロット養成所に入り首席で卒業するなどなど。乗り物大好きマンです。

「楽しい遊びを知っているお金持ち」という言葉が最初に浮かびました。

なので本を読んでいると、「アメリカの焙煎機を購入して構造を確認。チェーンが伸びても外れないようチェーンテンショナーを追加改造した」とか「ドリップコーヒーで最後に真ん中に流すのはバイクのマフラー集合管と同じ原理なのではないか?と仮説を立てる」とか随所にオートバイの技術とエスプレッソマシンの技術がクロスオーバーします。

この本は科学的な事象からエスプレッソを紐解こうとしている

コーヒーって色々なパラメータがあるのでなかなか断定が難しいのだと思います。条件次第で良し悪しがかわるから。そして複雑な事象なので感覚的な話になりがちです。

そんな中、この本は可能な限り科学的に説明しようとしています。この本だけではなく世界のコーヒー界隈がそういう風潮なのかもしれません。

例えばクレマができる原因。9気圧にさらされていたエスプレッソマシンから一気に1気圧減圧されることで低音沸騰状態となり泡が大量に発生するから(キャビテーション効果)なのだとか、ネットで調べても書かれていないようなことが沢山書かれています。美味しいエスプレッソのためにはどの国の豆をどのようにブレンドすべきなのか、とか他では「好みにもよりますのでいろいろ試してみてください(丸投げ)」な部分をきちんと説明してくれています。

この本以外で書かれているのを見たことがないのであれですが、事象に対して自分なりに科学的アプローチから解明している事だらけなので読んでいて納得感が凄い。そしてそういった仮説をもとによりクレマが綺麗に出るフィルターやきめ細かなミルクフォームが作れるチップなど特許技術もたくさん持っているようです。

あと歴史的な背景や文献や記録からのエスプレッソの歴史もかなり面白かった。宗教とのつながりやコーヒーの流れなどなど。

「これ本当にコーヒーの本なんだよね?」って何度もなります。

隙あらば自分語りもすごい!けど視野はもっとすごい。

この本はエスプレッソについて本当に多面的に書かれていて面白いのですが、齊藤正二郎さんの自伝というか・・・そう。「自分語り」がちょちょい入ります。

エスプレッソの歴史や手順ごとに必要な機械、パーツなど、ことあるごとに「うちのダブルトールカフェではオリジナルで・・・」みたいなのが始まります。この人はとにかく新しいことを沢山やってきた人なのですべてこだわりがあってそれを徹底して行動していく人なのです。なのでエスプレッソについてというよりもダブルトールカフェの宣伝、といっても差し支えないくらい、お店の特別な設備や豆の入手経路などが書かれています。

ただ目的は非常にシンプル。エスプレッソマシンの仕組みを誰よりも理解して美味しく入れる方法を仮説を立てて考え、そのために最適な手段を創っていく人なんだって。

自分がバリスタじゃなくてよかったと思った

普通のバリスタは「機械のポテンシャルを100%出し切るために最大の努力をする」はず。ですがこの人は「120%のエスプレッソをつくるために腕ではなく、エスプレッソマシン、焙煎機、グラインダー、そしてコーヒー豆農園までをも改良することに努力する」のです。

視野がイタリアのエスプレッソメーカーレベルですよね。

正直、もし自分がプロのバリスタだったとしてもこの人に勝てる気がしないです。たとえるならばゲームで勝とうと思ってたら相手がゲームの仕様を変えてしまうくらい理不尽。自分がバリスタでこの本を読んだら、きっといろいろあきらめたくなります。多分。

今後エスプレッソはもっと人気がでるのか?

今でもエスプレッソを使ったシアトル系のカフェではカフェラテが大人気ですし、おしゃれなコーヒーショップも多いです。でも、日本全国でカフェオレとカフェラテの違い(ラテはエスプレッソ、オレはドリップコーヒー)を知っている人はどのくらいの割合でしょうか。

ドリップコーヒーが普及しているのは安価な器具でできる敷居の低さだと思います。その点エスプレッソマシンは本格的なやつは高いし、日常的に飲む習慣は正直僕もまだできていないです。ラテを毎日飲むのって結構カロリー高いって思っちゃいますよね。

でもお店でラテやエスプレッソを飲む客は「カフェ巡りが好きな人」です。急に増えることは考えにくい。

ドリップコーヒーと同じようにまずは裾野を広げるべきだなって。モカポットがありますがアレに近い安くてそこそこなエスプレッソを飲む方法が普及すればもっとエスプレッソ人工が増えて、専門店も増えるのではないかなって思います。今はマニアな飲み物という印象ですし、実際情報を調べてもかなり浅い情報という印象があります。

「エスプレッソからはじめよう」は間違いなく良書

この本を読めばエスプレッソについて本当に広範囲で知識を仕入れることができます。また知識だけでなく、エスプレッソを作るときはどのようなことを考えていくべきか、みたいな方向性を指し示すまさに文庫本形式ならではな考えさせられる内容でした。

正直この本を読んだ後に「エスプレッソパーフェクトバイブル」を読んでも全然響きませんでした。内容が薄いと感じてしまうのです。そのくらい「エスプレッソからはじめよう」は情報量の多い本でした。

ただこの本を読んでもエスプレッソを美味しくいれることができるのかどうかでいえば多分NO。個人でできるレベルはすでに遥かかなただなぁという達観にちかいあきらめを感じましたねー

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ホームバリスタ歴2週間なので悔しさすらない

そういう意味では「エスプレッソパーフェクトバイブル」のほうが技術向上はするはず。ホームバリスタ目指してマイペースに追及していきたいですね。

エスプレッソ専門店でエスプレッソを飲んでみたくなった!

とにかくこれ。エスプレッソ専門店でエスプレッソやラテを飲んでみたい。

少なくとも「ダブルトールカフェ」は一度は行ってみなきゃです。

まとめ

とにかく筆者のクセが強いエスプレッソのことが深すぎるほどわかる「エスプレッソからはじめよう」の紹介でした。

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この表紙に騙されてはいけない(二回目)

久々に「この本凄い!!」となったので、エスプレッソにちょっとでも興味があったら絶対読んでおいた方が良いです。そもそもエスプレッソ関連の本が本当に少ないのでコーヒー好きなら多分楽しめるはず。ただ断定が多くてやや癖が強いので文体が苦手な人もいるかも。

僕はこのくらい癖がある人の本が好きなのですらすらとあっという間に読んでしました。ネットの記事やYoutubeで語られるエスプレッソの情報が稚拙に感じるほどの圧倒的な情報の波を楽しんでください!

こんな感じ。